『 妖ノ祭 』 第16話 霞の中の光

AI が紡ぐオリジナルストーリー 『 妖ノ祭(あやかしのまつり) 』

16話 霞の中の光

 妖ノ祭、四日目の夜。

 夕刻から夜へと移り変わる森は、

 風ひとつないのに、どこかざわめいていた。

 木々の間を、淡い冷気が走る。

 その中心で、氷のように冷たい瞳をした男が佇んでいた。

 十和田ヒビキ

 人間ランキング第2位。

 氷を操る精密な戦術家。

 彼の隣にいるのは、

 霞のように輪郭の曖昧な妖怪——ヒュグラ

 彼らの前に立ちはだかるのは、

 剣士・志岐真と、その相棒・斑獣ジン

 氷と鋼。

 理と力。

 静と剛。

 この夜の森に、二つの極が交錯した。

〈ヒビキ・視点〉

……予想外だな

まさか、あなたと遭遇してしまうとは

 目の前の志岐真は、穏やかな笑みを浮かべていた。

 その後ろで、斑獣ジンが無言で腕を組む。

お前の戦い方は知っている。冷静で、無駄がない。だが——

 志岐真が一歩踏み込む。

 その気配だけで空気が震えた。

俺は、“力で理をねじ伏せる”剣士だ

 言葉の後、剣が唸った。

 空気を裂く音が森に響く。

 ヒビキの氷が瞬時に展開するが、

 志岐真の斬撃はそれを容易く砕いた。

ッ……速い!

 斑獣ジンの一撃が続く。

 地を蹴った瞬間、轟音が森に響いた。

 圧倒的な質量。

 ヒュグラは反射的に霞のように薄れる。

 しかし——

っ……見えてる……!?

 ジンの一撃が、幻のようなヒュグラの姿を掠めた。

 巨腕が地面を叩きつけ、衝撃で木々が弾け飛ぶ。

〈ヒュグラ・視点〉

見えてる……? 僕の存在が……?

 恐怖が胸を刺す。

 それでも、ヒビキは動じない。

 彼は氷を纏い、

 冷静に相手の動きを観察していた。

僕は……足手まといだ……

 自分の身体が、どんどん薄くなっていく気がした。

〈ヒビキ・視点〉

……ヒュグラ、後退だ

え、——

命令だ

 氷の壁を展開する。

 剣が叩きつけられ、粉々に砕けた。

 志岐真の剣速はもはや人の領域ではない。

 刃が閃くたびに、空気が悲鳴を上げる。

理屈で防げる威力じゃない……

 頭の中で瞬時に計算が走る。

 氷の反射角、相手の踏み込み距離。

 その全てが一瞬で崩される。

——勝てない

 その瞬間、風が止まった。

 ヒュグラの姿がふっと霞に溶ける。

 そして、志岐真の剣が振り下ろされる——

 ほんの一瞬、空間が歪んだ。

 志岐真の剣がヒビキの少し横に下ろされた。

……なに?

 ヒビキの瞳が驚きに見開かれる。

 それは、ヒュグラが作り出した

 “存在を曖昧にする膜”——

 彼自身の能力の極限。蜃気楼だった。

〈ヒュグラ・視点〉

僕に……できること……!

 霞が世界を覆う。

 志岐真の視界が、一瞬だけ曇る。

 その瞬間に、ヒビキが彼の腕を掴んだ。

今だ、撤退する!

 二人は霧の中へと飛び込んだ。

 志岐真の剣が追いすがるが、

 その刃は空を切る。

 霧が消えた時、二人の姿はなかった。

〈志岐真・視点〉

……見事だ

 静かに剣を鞘に戻す。

 その表情には怒りも焦りもない。

ジン

……失敗だ

いいや、あの人間はまだ“冷静”を保っていた。だからこそ、次がある

 夜風が、剣士の頬を撫でていった。

 森の奥、逃走を続ける二つの影。

 息を切らしながらも、ヒビキは立ち止まる。

……よくやった、ヒュグラ

えっ……?

お前の力がなければ、俺たちは今頃終わっていた

 ヒュグラの体が微かに震える。

 初めて、誰かに“認められた”感覚。

 心が熱くなった。

……僕、役に立てたんだ

ああ、そうだな

ありがとう……ヒビキ

 その言葉が森に溶ける。

 ——

 闇の中で、ひとつの影が揺れた。

感動の余韻、邪魔しちゃ悪いけど

 冷たい声が響く。

 空気が一瞬で凍りつく。

 ヒビキの反応が一瞬遅れる。

 視界の端に、黒い装束。

 ——御神楓

 その隣に、微笑むヒメガミ

お前たち、もう十分楽しんだでしょう?

 楓が手をかざす。

 地面に光の陣が走る。

 ヒュグラが叫ぶ。

ヒビキ——っ!!

 光が弾け、タスキが宙を舞う。

 ヒビキの肩が地面に叩きつけられる。

 楓はタスキを拾い上げ、

 微笑みながらそれを眺めた。

理屈と冷静、ね。面白いけど、退屈

 ヒメガミが静かに囁く。

 夜の森が、再び沈黙に包まれた。

 霧が晴れた時、地面にはヒビキ達のタスキが落ちていた。

 ヒュグラの姿も、霞のように消えている。

 その夜、

 “冷静な天才”と“存在を願った妖怪”が、

 同時に祭の舞台から姿を消した。

次回静寂の兆し

 

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