『 妖ノ祭 』 第1話 封じられた夜、朱の光

AI が紡ぐオリジナルストーリー 『 妖ノ祭(あやかしのまつり) 』 

第1話 封じられた夜、朱の光

〈弦・視点〉

夕暮れの深仙郷は、だしの匂いで満ちていた。

屋台小路のすみで俺は、閉じた寸胴の蓋に鼻を寄せる。金属に残った微かな香り——鶏、昆布、そして、ほんの少しの煮干し。舌が勝手に唾を呼び、胸の奥がきゅっと鳴った。

……世界一、うまいラーメンって、どんな味だろうな

独りごとが湯気みたいに消える。俺、中谷 弦人間ランキング800位、つまり最下位。履歴に書くにはちょっと派手だが、誇れる感じではない。

小路の先、石畳のあちこちに灯る結界灯が、一斉に白から朱へと色を変えはじめる。

村全体に、宵の合図が降りた。

——妖ノ祭、開幕前夜だよーっ!

高台から朗々とした声が転がってくる。トコヨだ。タヌキの姿をした進行役の妖怪が、放送塔の上で手を振っている。

集会場の広場へ向かう道は、露店と提灯と、見慣れない顔で溢れていた。人と妖が肩を並べ、ざわめきの粒が空気を押し上げていく。

行くか

世界一うまいラーメン。その一杯に近づくための、最初の夜が始まる。

〈クウナ・視点〉

風が変わる。

この村は、夜になるといくつかの“音”が生まれる。虫の声、結界の糸が擦れ合うかすれ、祠の石が吸い込む息。そして、人の心が鳴る音。

私は神社の欄干に座り、足をぶらりとさせてそれを聴く。

騒がしいね

山の影から、ヒメガミの気配がこちらを見た。けれど私は目を合わせない。退屈を砕くものだけ、見たい。

今夜は、少しだけ面白くなる気がする。——抽選があるから。

私はランキング1。なんて肩書きは、ただの数字だ。強さは記号じゃない。退屈を壊せるかどうか、それだけ。

欄干から飛び降りると、地面がやわらかく音を立てた。朱色の光が、私の影を長く引きのばす。

さて、誰か退屈を壊してくれるかな

〈弦・視点〉

広場の中央に、半透明の箱みたいな抽選台が据えられている。トコヨがそれを叩くたび、光の粒が箱の中で弾けた。

えー、今宵は抽選! 人間と妖怪のランダムペア、百組を決めるよ。みんな、赤タスキの位置は“見えるところ”ね、隠しちゃだめだよ!

ざわつきの中、いかつい鬼の肩にちょこんと座った小さな座敷童、背の高い巫女の隣で微笑む青年、包帯ぐるぐるの犬面の妖……目が足りない。

そんな雑踏の中、昔からの顔馴染み水城ユナが手を振ってくれた。数少ない治療能力を持つ村の治療屋。隣にはふわふわの布の塊の妖怪——カサナリが寄り添っている。

弦くん、がんばってね。無茶はしないこと

うん、生き残ってご飯もちゃんと食べる。できればラーメン

ふふ、変わらないね

俺の順番は、わりとすぐ来た。箱の縁に手を置くと、指先に微かな静電気みたいな妖力が触れる。

中の光が渦を作り、名前と称号を探しているように見えた。

そして、ぴたりと止まる。

〈人間:中谷 弦 × 妖怪:クウナ〉

空気が、一度止まった。

……は?

口から勝手に音が漏れる。広場のざわめきが、一拍遅れて爆ぜた。

最下位に、鵺?」「縁起がいいのか、悪いのか」「いや悪いだろ」「いやいや、面白いでしょ

視界の端、黒装束の少女が歩いてくる。髪は夜を濾したみたいな黒で、瞳は灯りを溶かしたみたいな金属色。

俺の前に立つと、彼女はほんの少しだけ首を傾げた。

中谷弦。夢は?

え。……“世界一うまいラーメンを食べること”

一瞬、彼女の睫毛が困ったように揺れた。次の瞬間、口元がわずかに上がる。

悪くない。退屈しなさそう

トコヨが調子のよい声でまとめる。「鵺と最下位の夢ペア、成立〜!

俺は笑って、貰った赤いタスキを頭に巻いた。

まずは、祭りを歩くところから、だな

〈クウナ・視点〉

最下位の少年は、笑う。自分を落とすために笑うのではなく、前を向くために笑う。

奇妙な男だ。弱いのに、視線が逃げない。

お前は、囮

やっぱりそうだよね

即答か。

私は赤タスキを指で弾く。布地に編み込まれた偽造不可の印が、微かに鳴いた。

赤を隠すな。目立つ場所に。喰いついた相手の“狙い”が見える

頭でいい?

撃たれても死なない

そういう問題じゃないし、撃たれたら多分死ぬよ

彼の冗談は軽いが、判断は軽くない。囮になるというのも私に言われる前から考えていた様だ。

私は彼の横に並んだ。提灯の朱が、二人の影を絡ませる。

退屈は、少しだけ壊れはじめている。

 祭はまだ始まってもいない。

 けれど、この瞬間に——深仙郷の運命は動き出した。

 最下位の少年は、誰よりも前を向いていた。

 最強の少女は、久しぶりに笑っていた。

 朱の灯が夜空を満たし、村の屋根を覆う。

 風が、太鼓の音を連れていく。

 笛が、誰かの夢を呼び覚ます。

——妖ノ祭、まもなく開幕!

 

次回『最強と最下位

 

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