『 妖ノ祭 』 第21話 森を歩く影

AI が紡ぐオリジナルストーリー『妖ノ祭(あやかしのまつり)』

21話 森を歩く影

 妖ノ祭、六日目の朝。

 深仙郷の森は、夜明けのはずなのに暗かった。

 霧が低く垂れこめ、

 木々の間を漂う空気はぬるく、重たい。

 前夜、黒野レイジの怒りが放った妖気は、

 今もなお地の奥を這い、森の根を伝って広がっていた。

 その影は、まだ誰も知らぬまま、

 森全体の“感情”を少しずつ変えていった。

〈森下ショウ・視点〉

うわっ……うわぁぁぁっ!!

 木々をかき分けながら、ショウが転げるように走っていた。

 背後で、何かが“這うような音”を立てている。

待てショウ! 転ぶな!

 後ろから鉄塊坊の低い声が響く。

無理! もう足が動かねぇっ!!

落ち着け。気配は……遠ざかった

 鉄塊坊の巨体が木々の影を覆う。

 その存在だけで、周囲の空気がわずかに安定する。

な、なぁ鉄塊坊……今の、なんだったんだ?

妖の気配だ。しかし……濃すぎる

濃すぎるって……どういうことだよ

まるで、“怒りそのもの”が歩いているようだった

 森下ショウは怯えていた。

 戦う意思など最初からない。

 だが、妖ノ祭の舞台にいる限り、“戦場”からは逃れられない。

 彼の恐怖が、森の重さをさらに増していく。

〈ユナ・視点〉

……空気が変わったね

 遠くの空を見上げながら、水城ユナが呟いた。

 隣で、カサナリがふわりと伸びをする。

なんかねぇ、熱い風〜。嫌な感じ

 カサナリの体がゆらりと揺れ、

 布のような体表が木漏れ日を反射する。

昨日まではもっと静かだったのに。今日は、森が……ざわついてる

誰か、怒ってるのかもねぇ

怒ってる?

うん。風がピリピリしてる。“喧嘩した後の部屋”みたいな感じ

 ユナは微笑んだが、目の奥は真剣だった。

……そうだね。でも、この“怒り”はただの感情じゃない。妖力が暴走してる

誰の?

分からない。けど——

 ユナは静かに目を閉じた。

誰かの“心”が、限界まで煮えてる

 ユナの治癒能力は、感情の流れにも敏感だ。

 彼女が感じ取っていたのは、

 人の怒りが妖力の形を取り始めた“危険な予兆”。

 その感情は、すでに深仙郷の空気を染めつつあった。

〈弦・視点〉

……ねぇ、クウナさん。やっぱ変だ

 弦は、枯れ葉を踏みしめながら呟いた。

 昨夜から続くぬるい空気は、今も肌にまとわりつく。

妖気の密度が上がってる気がする。誰かが、ずっと“怒り続けてる”感じがするんだ

……怒りに気づくとは珍しい

褒めてるの

たまにはな

 クウナが小さく笑う。

 けれどその笑みの奥には、鋭い緊張があった。

この空気の中心にいる奴……普通じゃない。妖気の流れが自然じゃない。抑え込もうとして、逆に漏れてる

漏れてる?

そう。……“怒り”を自分で抑えられない奴だ

 弦は周囲を見回した。

 森の奥では、木々がゆっくりと揺れている。

 まるで、何か“大きなもの”が通った跡のように。

……森が、生きてるみたいだ

いや。違う

 クウナが低く言った。

“森が怯えてる”が正しい

 同じ頃、森の別の場所では、

 いくつものペアが息を潜めていた。

 誰も、姿を見ていない。

 誰も、正体を知らない。

 けれど、誰もが感じていた。

 ——この森には、何かが“歩いている”。

 それは風でも、獣でもない。

 “怒りの残響”。

 静寂の中を、音もなく進む黒い気配。

〈白丸・視点〉

 白丸はわずかに刃を震わせた。

 レイジの腰に収められたまま、何も言わず、

 ただ、主の“妖気の熱”を感じ取っていた。

……これが、人の怒りか

 白丸の心に、初めて“恐れ”が芽生えた。

この炎が、本当に燃え上がった時——あの鵺ですら、飲まれるかもしれない

 森の奥。

 誰も知らない場所で、

 黒い影がゆっくりと歩き出す。

 怒りの熱を孕んだ妖気が、

 木々の葉を枯らし、

 地を焦がしていく。

次回焦熱の息吹

 

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