『 妖ノ祭 』 第28話 揺らぐ結界

AI が紡ぐオリジナルストーリー『妖ノ祭(あやかしのまつり)』

28話 揺らぐ結界

 妖ノ祭・七日目の夕暮れ。

 空の色が、不自然に沈んでいた。

 青でもなく、紫でもない。

 空気の層が幾重にも重なり、陽の光が届かない。

 深仙郷を包む“結界”が、わずかに軋み始めていた。

〈弦・視点〉

……風が止まったね

止まってるんじゃない。“閉じ込められてる”のよ

 クウナの言葉に、弦は眉をひそめた。

 見上げる空の端に、細い光の筋が見える。

結界……?

ええ。妖ノ祭を囲む結界が、圧を変えてる。本来なら“内と外を隔てる”もの。でも今は、“内側を押し潰してる”

押し潰す……って、誰がそんなことを?

 その問いに答えるように、

 草むらの向こうから声がした。

やっぱり、君も気づいたか

〈トコヨ・視点〉

 狸面の妖、祭の運営者であるトコヨが現れた。

 軽口のようでいて、声は硬い。

深仙郷の妖力が、中心に吸い込まれてる。多分……誰かが“結界の根”をいじってる

根?

 弦が首をかしげる。

妖ノ祭の結界は、祭の開始時に全妖の力で張られる。本来は安全のための装置だ。でも、誰かが“根っこ”の機能をいじった。吸収と抑圧を同時に起こしてる

えーと、つまり……このままじゃ村全体が、力を抜かれたまま衰弱するってこと?

そういうことだね

〈クウナ・視点〉

 クウナは静かに周囲を見回した。

 森の色がいつもと違う。

 葉の緑が少しだけ鈍く、

 土の匂いが重く沈んでいる。

これを仕掛けたのは……相当、頭がいいんだな

頭がいい?」と弦。

構造が“理性的”すぎる。術じゃなく、“理”。つまり、人間の呪術体系が混ざってる

……人間か

 トコヨが小さく唸った。

そう。しかも高位の者。これはただの術式じゃない。——“祭”そのものを消滅させようとしてる

 夕暮れの光が、森の端で黒く揺らめく。

 葉の影が、まるで液体のようにうねっていた。

 妖たちは次々に倒れていく。

 しかし、命を落とすわけではない。

 ただ、目を閉じたまま立ち上がれない。

 衰弱の進行は緩やかで、

 まるで“夢を奪われた後”のように穏やかだった。

 それが逆に、恐ろしい静けさを生んでいた。

〈楓・視点〉

 祠の地下。

 御神楓は、陣の中心で目を閉じていた。

 呼吸ひとつ、乱れていない。

 術式陣の光は穏やかに明滅している。

 黒い結晶の中で、妖力の流れが整っていた。

……少しずつ、均されていく

 楓の声は穏やかだった。

偏りのある力を集め、平均化する。それが、私の目的だ。妖も人も、差なく——ただ静かに生きればいい

 ヒメガミが目を伏せた。

あなたは“平和”だと言う。でもそれは、“ただそこにいるだけ”じゃない?

ただそこにいるだけ、か。それが美しいんだよ

 楓の口元が微笑んだ。

〈ヒメガミ・視点〉

ただそこにいるだけ……?

 ヒメガミはその言葉を頭の中で繰り返した。

 たしかに、争いのない世界は理想だ。

 だがそれは、鼓動のない静寂でもある。

クウナ、お前ならどう答える?

 心の中でつぶやき、

 わずかに術式陣を見下ろした。

 光の流れが微かに乱れている。

 楓は恐らく気づいていない。

……この術は、長くはもたない

〈弦・視点〉

つまり……中心を探せば、止められる可能性があるってことだよね

そう。中心は祠の下層にある。ただ、そこへ行くには“妖ノ道”を通らなきゃならない

 トコヨが指さしたのは、森の奥の裂け目。

 濃い霧の奥に、歪んだ岩の階段が見えた。

妖ノ道……?

妖力の流れを具現化した、迷いの路。普通は結界管理者しか通れないけど……君たちなら、多分行ける

俺達なら行けるって、何を根拠に……?

根拠などきっと無いんだろう、なぁタヌキ?

まぁ根拠と呼べるかは怪しいけど、妖ノ祭運営監督様の勘!ってところかな

 弦はハチマキをきゅっと締め直す。

勘か……まぁクウナさんが一緒だしどうにかなるか

 クウナが頷いた。

 その目には、久しぶりに“戦う妖”の光が戻っていた。

 日が沈む。

 森を包む霧が、まるで意志を持つように揺らいだ。

 結界が軋む音が、どこからか響く。

 空気の粒が震え、光がかすかに歪む。

 弦、クウナ、トコヨの三人は、

 その歪みの中心へと足を踏み入れた。

 一方、地下ではヒメガミの視線が楓に向けられる。

 楓は気づかぬまま、術式を進め続けていた。

結界は、まだ破れていない。——だが、“心”のほうは、すでに揺らぎ始めていた。

次回妖ノ道

 

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